主人公美智男役須田邦裕くんはもともと知っていた。
須田くんが出演していた映画「ここに幸あり」(けんもち聡監督)を見ていたからだ。
須田くんは福岡にある姫島という小さな島に住む役者志望の高校生の役で、実家の民宿を手伝いながら自分の小遣いをはたいて東京から役者を呼んでレッスンを受けるという話だった。
純朴な口数の少ない男の子の役で好感を持って見ていた。
で、勝手にその映画の後もきっとあの民宿を手伝って暮らしてるんだろう、と思ってた。
それくらい役者っぽくなかった。地元でキャスティングされてたまたまその時だけ映画に出たのだ、って。
で、「バカバカンス」のキャスティング中。自主映画のサイトで募集をかけたり、人に紹介を頼んだりしてた。
けど、なかなか美智男だなって思える人に出会えずにいた。
そんなある日知り合いのダンサーの子が踊るのを見に行った。
ポールを上がったり下がったり。毎回見る度に感心する。
ショーが終わり同じく見に来ていた友達の女の子を紹介された。
聞くと女優をしていると言う。
「へーどんなのに出てるんですか?」と聞くと、「ここに幸あり」に出てたと言う。
へ!そんなことあるんだ。 こんなとこで会った偶然がちょっとうれしい。
「あの民宿の高校生役の男の子は島で元気に暮らしてるんですかねー?」
なんてのんきに聞く。
と、いやいや東京で役者をやってる、と言う。
え!何で?
何で?ってことはない。民宿で今でも働いてるってのは勝手な僕の妄想だ。
早速連絡先を教えてもらう。んでメールする。すぐに返事が来た。台本を郵送することになり住所を教えてもらう。
その住所が驚いた。
すげー家の近所なのだ。町名まで一緒。
不思議な縁を感じた。
台本封筒に宛名を書く。
とね書き間違えてしまった。
だって町名まで一緒だから。いつものくせで自分の家の住所書いてしまったのだ。
封筒を一枚無駄にし、そんな失敗にひとりニヤニヤしながら何かいい予感がしていた。(続く)
須田くん家の近所に住む
宮田宗吉(監督)